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東京高等裁判所 昭和29年(う)778号 判決

被告人 船田文造

〔抄 録〕

戸倉弁護人の論旨第一点について。

刑事訴訟法第二七五条には、「第一回の公判期日と被告人に対する召喚状の送達との間には、裁判所の規則で定める猶予期間を置かなければならない。」との規定があり、刑事訴訟規則第一七九条第二項には、「第一回公判期日と被告人に対する召喚状の送達との間には、少くとも五日の猶予期間を置かなければならない。但し、簡易裁判所においては、三日の猶予期間を置けば足りる。」と規定されていることは所論のとおりであつて、本件記録に徴すれば、昭和二九年二月一三日附起訴状は同年同月一五日被告人に送達されたのにかかわらず、原審裁判所においては、同起訴状記載の公訴事実につきその翌日である同月一六日併合決定をした上、即日審理を行つた事実が認められることも亦所論の指摘するとおりである。しかしながら、所論も認めているように、前示刑事訴訟規則第一七九条第三項には、「被告人に異議がないときは、前項の猶予期間を置かないことができる。」旨の規定があつて、右の併合決定及び審理の行われた原審第五回公判調書の記載によれば、所論昭和二九年二月一三日附起訴状記載の公訴事実につき三日の猶予期間を置かずに審理することについては同第五回公判期日に出頭した被告人及び弁護人が異議なく弁論したことが認められるのであるから、原審の訴訟手続にはこの点につき刑事訴訟法第二七五条及び刑事訴訟規則第一七九条に違反する違法があるものということはできない。しかるに、所論は、右刑事訴訟法第二七五条は基本的人権に関する強行法規であるのに、刑事訴訟規則第一七九条第三項は、最高裁判所の規則制定権に基ずき定められた規則に過ぎないから、後者によつて前者を改廃することはできないものであり、右規則第一七九条第三項は強行法規たる前示法第二七五条に牴触する無効の規定である。従つて右規則第一七九条第三項により猶予期間を置かずに審理した原審の訴訟手続には法第二七五条に違反した違法がある旨主張するにより、案ずるに、法第二七五条は、被告人に対し防禦権の行使に必要な準備をさせるための猶予期間に関する被告人保護の規定であつて、被告人の基本的人権に関係のあることは所論のとおりであるけれども、被告人としては、右のような防禦の準備をすることも重要ではあるが、他面迅速な裁判を受ける権利をも有するものであるから、この方面から考えるときは、被告人に異議がない限り、例外として、右の猶予期間を置かずに審理することができる旨を定めたからといつて、あえて被告人の保護に欠けるところがあるものということはできない。してみれば、前示法第二七五条の規定は必ずしも所論のような厳格な意味の強行法規ではないと解するのが相当であつて従つて右規則第一七九条第三項の規定も亦所論のような右法第二七五条に牴触する無効の規定ではないと解すべきであるから、前述のように、規則第一七九条第三項の規定に則り三日の猶予期間を置かずに審理した原審の訴訟手続には所論の法令違反は存在しないものといわなければならない。論旨は理由がない。

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